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人気のない路地裏。店と店の間の狭い狭い空間。通りかかっただけでは、人がなんとか通れるくらいの隙間がそこにあることすら気付かないだろう。しかもかなり奥まで入り込むと、汚れた板や壊れた木材などが歩道をゆく者の視線を遮り、その先は完全に死角のスペースとなる。ククールはいつからこんな場所があることを知っていたのだろう?それとも偶然?ただの買い出しのはずだった。ククールいわくデートがてらの。気付いた時にはゼシカはそこにひきずりこまれ、逃げ場を失っていた。お互いの身体をかなり密着させないといけないほどの狭いスペース。汚れた壁に押し付けられ、なにごとかと見上げたククールの目には、すでに欲情が燃え上がっていた。いきなりのキスがうっとりするほど優しかったから、それを許可してしまったのがそもそものミス。調子にのった…のか、それともそれこそ計画通りだったのか。当然ながらククールの要求はそれだけでは納まらず、抵抗する間もあればこそ、たちまち彼の手はゼシカの身体中を撫で回しはじめ、いつの間にやらしんぴのビスチェは中途半端に乱され、脱がされていた。強引に剥き出しにされた両の乳房が布からはみ出し、超ミニスカートから伸びる眩しいニーハイの足元で、引きずり落とされた下着がくしゃくしゃになっている。ゼシカは始終抵抗した。ククールの指先が背中のラインを縦にくすぐる。胸の先端を唾液でベトベトになるほどなぶり噛みついて、残った指先はあってなきような短いスカートの裾から太ももを辿り、否応なしに濡れ始めた割れ目をからかうようになぞっている。噛みしめた唇の隙間から思わず恥ずかしい声が出ても、それでも理性だけはなんとか保った。だってこんなところで。数メートル先で雑踏を行き交う大勢の人たちの喧騒が聞こえるのに。こんなところでスルなんて…!「ぁふ…っ、は…っ、あ、アッ、ダメ…バカ…!」「…誰もこんなとこでオレ達がセックスしてるなんて思わねぇって。こんなすぐ誰かに見られちまうような 普通じゃないとこでさ…」ククールは知っている。ゼシカが羞恥に悦ぶことを。だからわざとそんな言い方をする。「仮に見つかったって…我慢できずにこんな場所でヤっちゃうほど、ゼシカは淫乱なんだって思われるだけだ」「ち…っ、がう…っ」ゼシカの腕が弱弱しく、自分の股間にある彼の手を押しのけようとする。その瞬間ククールは一番長い指を、収縮を繰り返すそこにいきなり突き入れた。指は卑猥な音すら響かせ、やわらかいその内へなんの抗いもなくスムーズに飲み込まれていく。「――ッッッ!!!アッ、…ハ…ッ…いや…!」「すんごい濡れてんな…」「もう…ダメ…これいじょ…っ、あっ!そこイヤ!んん…っ」「ココ触っちゃイヤ…?ゼシカがいちばん可愛く喘ぐとこなのに」ゼシカは全身を震わせながら、なんとか快感をやり過ごそうと口唇を噛んで耐えた。いちばん弱い一点を親指で刺激されて、頭の中が吹っ飛びそうになる。もう理性は風前のともしび。 本当は信じられないほど興奮しているのを自覚している。真昼間の街中。行き交う大勢の人との間にろくな隔たりもないこんな場所で、胸もアソコもさらけ出して、いやらしいことをして、興奮している。もう身も世もなく声を上げて、啼いて、泣いて、没頭してしまいたかった。そんなことを考えてしまうほど確かに自分は淫乱で、どんなに嫌がってみせたってククールにはお見通しなのだ…「あっ、あっ、あ…っ、もうダメ…やめ、てよ…っ」ゼシカは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆って、泣きじゃくりながら懇願した。3本に増えた指を容易に銜えこんでビクビクと腰を跳ねさせて悶えているくせに、まだ言うか、とさすがのククールも不満気に眉をひそませる。「めちゃくちゃ気持ちいいんだろ?なに意地になってんだよ、ホントにやめていいのか?」「やめ…、だっ…、……だって…こんな…」「挿れてほしくないのかよ、コレ…」すっかり開ききって蜜をしたたらせるそこに、ズボンの中で熱く張りつめている塊をグリグリと押し付け、ゼシカの入口を何度もくつろげる。切望しているその存在を誇張されて、ゼシカはよだれを垂らすように自分の中からドクリと何かが溢れ出したのを感じた。欲しい。助けて…死んじゃいそう…「…ッ、もって…な」「え?」「もって…ない、でしょ…っ、つけなきゃ…ダ…」そう。恋に溺れて、セックスに溺れて、現実を見失うようなことだけはやめようと約束した。大切なかたき討ちの旅。世界を救う旅。世界は2人だけのものじゃない。大切な仲間との旅。お互い気持ちを隠すことはもうできなかった。しかし、最低限の節度を、ケジメを、と。ゼシカは訴えた。本当はしたい。それはもう否定しない。でも、それだけは譲れない。流されちゃダメ…―――ふいにククールがニヤリと笑ったので、ゼシカはぎょっとした。「…持ってる」ズボンのポケットから出されてきた薄いビニールに、うそ、と口唇だけで呟く。ククールの勝ち誇った笑みに呆然とする…「つけるならいいんだよな?お前そう言ったよな?」「い…っ、いつから…、アンタ…ッ、なんで…!?」「さぁなぁ。…それじゃ、お許しも出たことだし…」いつのまにか際どい部分に擦りつけられている生身のソレを握らされ、ゼシカは思わず悲鳴をあげた。「ゼシカがつけてよ。だってゼシカのお願いだもんな?」「い、イヤよッッ!!!!!!バカッッ!!!!!!!」「それじゃあ挿れてやれねぇなぁ」「イヤよ…そんなの…バカ…ッ。……いじわる…」「“イヤ”って、どっちの意味で?」顔を真っ赤にさせ涙を浮かべてうつむくゼシカがあまりにも可愛くて、もっといじめたくなるのをククールはなんとか自重する。口で封を切り中身を取り出すと、震える小さな手に自分の手を重ね、隆起しているそこに触れさせた。彼女の指を操るようにして、「必需品」のアイテムを2人で一緒に装着する。まさに「セックスをするための準備」を自らの手で彼のそこに施す、という倒錯的な行為にゼシカの息はますますあがった。私はなんてはしたないことを、という自嘲と羞恥の入り混じった困惑と手にした熱い存在を欲してやまない欲望がぐちゃぐちゃになって、思考を侵していく。そして、羞恥に身悶えながらもゼシカのつたない指先は自分の怒張にからみついたままで、その幼さと卑猥さのアンバランスに、ククールの最後の理性も気前よくどこかに吹っ飛んで行った。 「…ッ…ゼシカ…叫ぶなよ」ククールの余裕のない声が耳元でして、ゼシカはハッと我に返った。―――そういえば。そういえば、こんな狭い場所でどうやってするの?寝転がれるスペースなんかもちろんない。後ろから…も、自分が下半身を付き出せるほどの幅がない。密着したこの態勢から動きようがない。戸惑いながらククールを見上げた瞬間彼の手が片方の太ももを胸に突くほど高く持ち上げて、ゼシカは目を見張った。「えっ!?…ッ!!い、いや!ウソ…!!」「なにが…」「こ、こんなままで…っ!?む、無理よ…立ってなんて…」ゼシカの訴えにククールはそういやはじめてか、と呟き、しかしかまわず腰を押し進めた。先端が入口をくすぐり、わざと敏感な突起を弄ぶ。「あぅ…っ!ん、んん…ッッ…やだ、イヤだやめて…」「大丈夫だから。絶対支えててやるからオレにしがみついてろ」「イヤ…ッ!!こわい…ッッ!!」「怖くない怖くない」ズル、と自分の中に分け入ってくるモノを眼下で驚愕の思いで見つめながら、ゼシカは必死で首を振った。「…ホラ…ちゃんと入るだろ?」「あ…あ…あ…ア…っ!!は…っ」ゼシカは目を見開いたままククールの背にしがみつき、少しずつ、徐々に全長が埋め込まれていくのを嫌というほど実感する。真横から侵入してくるよく知っているはずのソレがいつもとは違う角度でゼシカの性感帯を擦りあげ、目眩がするほどの悦楽をもたらす。ここまでなんとか(若干とはいえ)抑えてきた嬌声が、もうこらえきれないことを悟る。雑踏から奥まった場所。か細い喘ぎなら届かなくても、悲鳴のように叫べば側を通りかかった人の耳にはきっと聞こえてしまう…「く、クク…!!動か…な、で…っ……ッ、こえ、が…」「……バカ。動くに決まってんだろ…ッ」腰ごと抱えあげた足を揺さぶり、ククールもゼシカも強烈な快楽に苦痛のような表情を浮かべた。ゼシカは口唇を噛みしめ、出かかった大声を無理やり飲み込む。目尻に涙をためて堪えているその表情はなんとも扇情的で嗜虐心を煽るが、ゼシカのそんな顔を誰かに見られて嫌なのは間違いなく、声を抑えるなとうかつに言うわけにもいかない。ククールは汗のにじんだ額をゼシカの額にコツンと合わせ、優しく微笑んだ。「…ゼシカ。叫びそうだったらオレの肩噛んで。遠慮しなくていいから」躊躇したが逆らえる術もなく、ゼシカは荒い息のまま喘ぎなのか返事なのかわからない声を漏らした。とろんと とろけた瞳で、上着を脱いだ、ククールの肩にシャツごとカプリと噛みつく。湿った吐息が肩や首筋に注がれ、ゾクリとククールは背筋を震わせた。唐突に腰を揺すぶりあげ、最奥まで自身を突き入れる。「―――ッッ!!!!ア、アァ…ッンンン…!!!!」途端にゼシカは苦しそうなうめき声をあげ、ククールの肩に思い切り歯を立てた。そして爪を。その痛みが、いっそうククールの動きを激しくする。ゼシカの止まらない涙がククールの肩を濡らす。ククールも、ゼシカの肩に噛みついた。快楽の声を抑えるためではなく、所有の証として。昼日なかの街中の路地で、カリスマとおいろけというエロスのスキルを極めた男女がセックスに酔いしれていることに気づいた者がいたのかどうかは、定かではない。
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潮時・翌朝の時系列のククゼシ ※開発未満1※・※開発未満2※・※開発未満3※・※開発未満4※・※開発未満5※・※開発未満6※ ククールは慎重に様子をうかがいつつ、口唇を合わせたままそっと、彼女の下腹部で重ね合わせたお互いの指を、濡れた裂け目の中に侵入させた…「―――ッッん!!」急激にもたらされた異物感に、ゼシカは驚いて身体を跳ねさせる。しかしククールの口付けはなにごともないように優しく穏やかに続けられるので、ゼシカはもうどこに気を置けばいいのかわからなくて、混乱するものの抵抗する気力を奪われていく。ククールの指が、器用にゼシカと自分の中指を蠢かせ内側の粘膜を優しく擦ると、腰が自然に浮いた。強くないゆるやかな快感がじわりと沸き上がる。息が上がって、口づけが苦しい。「…気持ちいい?」 口唇の合間でククールが囁くと、ゼシカは息を大きく吸いながら、くたりと頷く。素直なゼシカにククールは微笑むと、口づけを、今度は乳房へと移動させた。「あっ…ん」色づく部分を大きく含んで甘噛みされると、痺れるような快感が走る。感じることに没頭しかけているゼシカを、ククールの低い声がすぐに引き戻した。「ゼシカ…こっち」「…ぇ…?」ずっとゼシカの体内でゆるやかに快感を生み出し続けていた指が、ゼシカのお腹側の性感帯を力をこめて撫であげると、ゼシカは声を上げ、否応なしにそこを意識せざるを得なくなる。自分の信じられない場所に侵入している、いやらしい自分自身の指の存在を。「お前の中、どんな風か教えて?」「…ヤッ、ア、ぁ…あ、…。……………あつ…ぃ…」「…濡れてる?」湿った温度と、からみつく粘液を、指先にじっとりと感じながら、ゼシカは頷く。ククールが、再びゼシカの胸を愛撫しだした。強い力で先端を抓られると、「ひゃ、ぅ…ッ!」全身が跳ね、胸にもたらされたはずの刺激が下半身に襲い来る。瞬間的に飲み込んでいる指が締め付けられたのを感じた。そして新たな体液で指先が濡れたことも。「……きゅ…て、なった…」初めて実感した自分の身体の反応をゼシカはただ素直に口にし、荒い息のままククールをぼんやりと見上げる。ククールは嬉しそうに破顔し、うん、と頷いた。「それが、ゼシカが気持ちいいとオレも気持ちよくなるってこと」「わたしが…きゅってしたら…クク、気持ちいいの…?」「最高に」「……こんなに濡れてるの……、…変じゃ、ない?」「変じゃない。もっと濡らしていいよ。そして、もっとオレを気持ちよくしてくれる?」「うん…」 ククールはゼシカと自分の指をシンクロさせて狭い内側を優しく侵しながら、待ち焦がれるように震える乳房を、空いた手と口で今までよりも若干激しく噛み、揉みしだいた。「あっ、ア…、ククール…ッ、ヤだ…ッ、や、ん…」「指、どんどん締めつけてるの…わかるだろ…?」「アンッ、アッ!ん、ぅん…ッ、……やだ、あっ」「いつもゼシカのココは、オレをこんなにキツく締め付けてるんだぜ…抜かないで、って」身体は官能にゆだねてしまっても、心にわずかに残った羞恥心がククールのあからさまな挑発に反応する。ゼシカが身体を強張らせると、連動するかのように中がきゅううと締まった。「んんん…ッッ、あぁっ、あっ、ヤだ、ヤだぁ、ダメ…!」ゼシカは首を大きく振って乱れた。小さく暴れた拍子にククールに掴まれていた指が離され、自らの体内からズルリと抜け出て力なくシーツに落とされる。ハァハァと息を荒げながら濡れそぼった指先を呆然と見た後、ゼシカは腕を緩慢に持ち上げ、それをククールの口元に近づけた。ククールが優雅にその手を取り、味わうかのように舐めはじめるのを、恍惚とした顔で見つめる。それはどこか、姫君の手甲に誓いの口づけを捧げる騎士のような、ロマンティックな光景にも見えた。騎士はぴちゃりと音を響かせて、姫君が零した 淫らな雫を恭しく舐め取っていく…ゼシカはゾクリと身を震わせた。ただ指を舐めるだけの行為が、このうえなく卑猥に思えて。「…ね、クク…私も、ククールをいっぱい気持ちよくしてあげたいから…だから、…だから、 ―――……もっと私のことも、気持ちよく、して…ほしい…。……私、変なこと言ってる…?」戸惑う瞳がたまらなく愛しく、かわいい。ククールは安心させるように笑い返して、ゆっくりとゼシカに覆いかぶさった。小さくキスして、瞳を合わす。「……仰せのままに」 ※開発未満1※・※開発未満2※・※開発未満3※・※開発未満4※・※開発未満5※・※開発未満6※
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ゼシカがいなくなった。 ドルマゲスを倒し、一旦サザンビークの宿屋に戻った翌朝、誰にも何も言わずにゼシカは姿を消した。 「やっぱ、むさい男だけのパーティーがイヤになったとか・・・」 「安心しろ。このオレがいるかぎり、断じてそれはない!」 ヤンガスの言葉を、オレは即座に否定する。 そう、あのゼシカがオレに何も言わずにいなくなるはずがない。 あの約束がある限り・・・。 とりあえずゼシカの故郷に行ってみようと、エイトのルーラでリーザス村へ移動する。 素朴でのどかで、小さな村。ここがゼシカの話していたリーザス村・・・。 「ここがゼシカの出身地? でも残念ながら、ここにはゼシカはいなさそうだぜ」 エイトとヤンガスが、怪訝な顔をしてオレを見てる。 「・・・なんでそんなことがわかるかって?」 まあ、当然の疑問だな。 さて、何て答えるかね。 ねえ、ククールはもう聖堂騎士団には戻らないんでしょう? ドルマゲスを倒した後、どうするの?」 太陽のカガミで闇の遺跡の結界を払い、突入前に各自、装備と持ち物の確認をしていた時だ。ゼシカが突然、訊いてきた。 「オレ? オレは世界中の美女の呼ぶ声に応えるさ。もちろん、君が最優せ・・・」 「真面目に訊いてるのよ」 いつも以上に真剣な眼差しに、オレはつい視線をそらしてしまった。 「そうだな、とりあえず修道院には敵討ちの報告だけはして・・・。その後は念願の自由だ。気楽な一人旅でもしてみるさ」 「もし良かったら、ウチに来ない? 住むところだったら、サーベルト兄さんの部屋が空いてるし」 あれには本気でドキッとしたっけ。 「リーザス村っていう小さな村なんだけどね。村の外壁とかも頑丈じゃなくって、安全面で今一つ心配なのよ。以前はサーベルト兄さんが村を守ってくれてたんだけど・・・」 「それって用心棒ってこと? それならゼシカがいるじゃないか。あの大陸の魔物だったら、片手で楽勝だろう?」 「それがダメなのよ。『アルバート家のお嬢様にそんなこと』って止められるのがオチだわ。お母さんだって、猛反対するだろうし」 「それに、アンタみたいなタイプは誰かが見張ってないと、イカサマポーカーとかばっかりで、ロクなことしないわ、絶対」 ズケズケとキツいお嬢様だよな、ホントに。 「別にずっとってわけじゃないのよ? 少しのんびり過ごして、自分が本当にどうしたいのかゆっくり考えてほしいの。それで生き方が決まったら、いつでも出て行ってくれて構わないから」 オレはゼシカの言葉に揺さぶられている自分を悟られないように必死だった。 「どうして、そこまでオレを?」 「だって、なんだか心配なのよ。ほっておけないっていうか・・・」 その時だ。エイトの奴が、オレにまほうのせいすいを寄越してきやがったのは。ああ、まあ、回復役のオレが大事な決戦でMP切れおこすわけにはいかないからな。もっともな判断だとは思うよ、実際役に立ったし。 だけど、何もあのタイミングで・・・。 この借りはいつか返すぜ、エイト。 「準備完了ね」 立ち上がったゼシカの表情には、油断も甘えもなかった。 「返事は帰ってからでいいわ。ちゃんと考えておいてよ、約束だからね」 そう言って、ゼシカは力強い足取りで、闇の遺跡に踏み込んでいった。 首尾よくドルマゲスを倒し、サザンビークに戻った後、ゼシカの口数は少なくなり、オレも疲れてるんだろうと、特に話しかけることもしなかった。 そしてこの通り、ゼシカは突然いなくなり、オレは当然あの時の返事をしていない。 「・・・勘かな」 このおせっかいどもには言えねぇよな、やっぱり。 口をそろえて『そうしろ』って言ってくるに決まってる。 悪いな、ゼシカ。 せっかくのお誘いだけど、答えは『NO』だ。 お前、やっぱりお嬢様だよ。世間知らずだ。 オレみたいな人間を、自分の家に住まわせようだなんて、無邪気にも程がある。 『仲間』として信頼してくれてるんだろうけど、『男』としてのオレに対しては、結構残酷なこと言ってるって、気づいてないだろ? でもな、ゼシカ? オレがあの時、そんなに嬉しかったか、わかるか? きっと、お前には想像もつかないくらいだと思うぜ。 あの時、ゼシカが言ってたことは大正解だ。 オレは一人だったら、ロクなことしやしない。 オヤジのように・・・いや、もっと投げやりな生き方して、どこかで一人、惨めに野垂れ死にするのがオチだ。 でも、もしこの世界に、自分のことを気にかけて、心配してくれる人間が一人でもいてくれたら・・・。 そうしたら、オレは独りぼっちなんかじゃない。 あの時のゼシカの言葉を思い出すだけで、胸の奥が温かくなる。明るい光が射す。 どこでだって、ちゃんと生きていける。 あのゼシカが、自分から口にした約束を果たさずにいなくなるなんて、ありえない。 何か大変なことに巻き込まれてる。それだけは確かだ。 待っててくれ、ゼシカ。 たとえ、それがどんなに困難なことだろうと。 オレが必ずそこから、お前を救い出してみせるから・・・。 < 終 >
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「まだ飲み足りないの?私は宿屋に戻って休んでるから。どうぞごゆっくり!」 「そりゃないぜハニー」 そう言うククールの周りには、いつものようにバニーガール。 エイトはやや困った風情で、ヤンガスは「ま、仕方ないでげすね」という表情でこちらを見ている。 ゼシカはそんな仲間たちを見ながら酒場を後にした。 ここはドニの町。宿屋は道を挟んですぐ向かい側…のはずだったが。 「あれ?私酔ってる?」 外は真っ暗だった。町の灯りがあって然るべきなのに。 振り向くと、たった今出て来た酒場の扉すら見えない。 手を伸ばしても何にも触れられない。 「あれ?なにこれ?やだ…ねぇ、みんな…みんな、どこに行っちゃったの!!?」 「!!…夢、だった…のね」 ふぅ、と息をつくことで、ゼシカはようやく今の出来事が夢だったと実感できた。 「随分とうなされてたでげすな」 心配そうに語りかけてくるヤンガスの声を聞き、ゼシカは記憶の整理をする。 「スープか何か貰ってきやす。ちょっとでも食った方がいいでがすよ」 そう言って派手な足音を響かせ受付カウンターへ向かうヤンガスを見送りながら、ゼシカは天井を仰いだ。 (そうだった。私はあの杖に操られてとんでもないことをしちゃって、みんなが助けてくれたんだっけ…) 七賢者によって杖に封じられた暗黒神の魂から放たれる邪気は、想像以上にゼシカの身体を蝕んでいた。 一行は彼女の体力が回復するまでリブルアーチ逗留を余儀なくされてしまっていた。 ゼシカは数日間眠り続け、一度は目を覚ましたものの、仲間の顔を見て安心して再び眠りに落ち、そして今の悪夢に襲われたのだ。 横になっていたら悪夢の続きを見てしまうかもしれない…。 そう思ってゼシカはゆっくりと起き上がった。意図してゆっくりではない。身体が鉛のように重く、思うように動いてくれないのだ。 眠り続けていたゼシカは知らないが、宿屋の従業員はゼシカを恐れて客室に近付こうとはしなかった。 無理もない。ゼシカは町の中であれだけの事をしてしまったのだから。 町で平和な日々を送る人々は、呪いや魔法のなどといった日常からかけ離れた事柄についての知識は無いに等しい。 何かあったところでハワードのようなその道に心得のある者を頼れば良いのだから、なおさらである。 そんな彼らには、ゼシカの見た目以外の違いが分からないのだ。 「良かった。寝てなかったでげすな」 ヤンガスがスープを持って戻って来た。 「ありがとうヤンガス」 ゼシカはスープを受け取り、立ち上る香りを嗅ぎ、口に運ぶ。 スープを味わう。 ただそれだけの事に、ゼシカは幸せを感じずにはいられなかった。 暗黒神に操られていた時は、何を食べても味も香りも感じられなかったのだ。 意識だけを残しておいて他の感覚を全て奪い、操る。 そのことでもたらされる不安と恐怖を糧として、その呪縛は更に強固なものとなる仕組みだったようだ。 暗黒神の呪縛の恐ろしさを、解放されてみて改めて思い知らされる。 スープの熱さと塩味が少し滲みた。口の中と、唇と。 痛かったが、しかしその事がゼシカには心地よくもあった。 「…おいしい」 「そりゃ良かったでがす。ゆっくり食ってくだせえ」 「ねぇ、みんなは何してる?」 時間をかけてスープを半分程に減らしたところでゼシカが切り出した。 「兄貴は馬姫様とおっさんの所に行ってるでがす。ククールは…」 一瞬考え込むポーズをした後、ヤンガスは続けた。 「アッシと交代した時、ちょっとドニの町まで行ってくるって言ってやしたね」 「ドニの町?」 ちくっ、と胸に刺さる地名だった。 ドニの町にはククールの知り合いが何人もいる。 面倒見の良さそうなおばさん。説教をしてくれるおじいさん。気さくな酒場のマスター。 そして、酒場に入ると喜んで駆け寄ってくるバニーガールたち…。 馴染みの顔に逢って嬉しいのは分かる。けど、バニーガールたちにもみくちゃにされているククールの姿を見るのは、何となく嫌だった。 「私が動けないから…暇つぶしに行ったのかな?」 ゼシカの絞り出すような声を耳にして、ヤンガスの頬には一筋の冷や汗が流れる。 「そっ、そんな事は無いと思うんでがすが!酒ならこの町でも飲め…」 しまった!!とヤンガスは思ったが、時既に遅し。 「ふーん。用があって行ったんだ。ドニの町に」 一行の足を止めているのは、他ならぬゼシカ自身だ。 自分の回復を待ってくれているだけでありがたいと思わなければならないのに。 仲間の自由時間の使い方に目くじらを立てるなんて立場ではないのに。 なのに、胸が痛む。 突然、宿屋のドアが乱暴に開けられた。 「あ、すいません、大きな音たてちゃって」 「まぁ大変!転んだりなさったの?!」 「いてて…。ったく、階段多すぎだぜ、この町は」 二人の男の声と宿屋のおかみさんの声が交互に聞こえてくる。 エイトとククールだった。 「お!兄貴たちが来やしたね」 ゼシカにどう声をかけたものかと思案に暮れていたヤンガスが、助かった、とばかりに受付カウンターの方へ向かう。 「ほんとに二人して転んだみてぇでがすなぁ」 笑いながら言うヤンガスの口調で二人が大した事態ではないと、姿を見る前にゼシカには解釈できた。 ほどなく部屋に入って来た二人は、なるほど土ぼこりにまみれている。 ククールがエイトの肩を借りている状態だった。 「馬車の前で陛下と話をしていたら、ククールがルーラで飛んで来たんだ。「そこどけ~!!」って言われたんだけど、避けられなくて…」 「直撃を喰らったでげすか」 うん、とエイトが頷く。 「トロデ王やミーティア姫に当たらなくて良かったじゃない」 「うん。陛下もそう仰ってた」 エイトの言葉で一同は笑い出した。 笑いながらゼシカは思う。 (うん、夢じゃない。私、みんなの所に戻ってこられたんだ…) 「ああ、わりぃ。二人ともちょっと席外してくれねえ?」 ククールのその言葉に、ぴくっとゼシカの肩が一瞬震えた。 ドニの町から帰って来たククールに、一体どう接すればいいのだろう? そんな考えをゼシカが脳裏に巡らせている間に、エイトとヤンガスは宿屋を出て行ってしまった。 先ほどまでヤンガスが座っていた椅子にククールが腰掛ける。 「お酒くさっ!」 ゼシカの一言目は自然に出た。いや、出てしまった。 「参ったな。そんなに匂うか?」 ククールは悪びれもせずに言うと、自分の袖口や肩などの匂いを嗅いでいる。 「ばっかじゃないの?飲んだ本人には分からないわよ」 「スープ」 え?とゼシカは手元を見る。 「スープ、冷めてるぜ。さげとくか?」 酔っているくせに細かい奴、と思いながら、ゼシカはスープ皿をククールに手渡す。 カウンター越しにククールがスープ皿をおかみさんに渡す様子が、ベッドからも伺えた。 「ドニの町に行ってきたんだ」 思いもかけず、直球が飛んできた。 カウンターから戻ってきたククールは、今度は椅子ではなく奥のベッドに腰掛ける。 「知ってる。ヤンガスが教えてくれたわ。バニーさんたちは元気だった?」 咄嗟に返した言葉を反芻してゼシカは、何で私はイヤミ言ってるのよ、これじゃ誰かさんと同じじゃない!と思い、胸の内で頭を抱えてしまった。 「ああ、元気だったぜ。その元気を分けてもらいに行ってきたんだ」 「はぁ?」 「おかげでこんなに飲まされちまった。まったく、酒酔いルーラなんてやるもんじゃないな」 呆れて言葉が出てこない。 ゼシカは、はぁ、と深くため息をついた。 自分が臥せっている間に、馴染みの店で楽しい時間を過ごしてきたと言うのだ。 この男は。臆面も無く。 何故そんな話を聞かせられなければならない?酔った勢いにしても酷すぎではないか。 「ふーん、良かったじゃない。元気を分けてもらえて」 ククールから視線を逸らし、そう言うことしかゼシカにはできなかった。 「あのさ。目、つぶっててくれないか」 まったく、この酔っ払いは唐突に何を言いはじめるのだろう? そう思いながらククールを見やると、その表情はいつもの軽口をたたく時とは明らかに違うものになっていた。 「なっ…なんでよ?」 「秘密。すぐ分かるけどな」 仕方がないのでゼシカは言われた通りにする。 まさかこんな状態の時に変な事しないわよね?と思いつつも、ゼシカの胸の内には様々な感情が交錯する。 わざわざ人払いをしたのだ。何か目的はあるはず…。 手袋を外す音がした。両手分。 それはほんの数秒であるはずなのに、目を閉じているせいかゼシカには長く感じられた。 身体の内から耳の奥に胸の鼓動が直接聞こえる。気付かれたくはなかった。 ほどなくして。 ゼシカの顎にそっとククールの指が触れてきた。 そのままほんの少しだけ上に、ややククールの側に向かせられる。 「なっ…なにす…」 「動かないで、そのまま」 ククールの声は普段とは全く違っていた。深く、重い。 目をつぶったままなので見えはしないが、おそらくは人さし指であろうそれが、ゼシカの唇に触れてきた。 いわゆる「静かに」という、あの動作。 身体が硬直する。頬が熱くなり、胸の鼓動は更に高まる。 (…ずるい。こんなの反則よ…まるで魔法だわ…) その永遠とも思える一瞬の後。 つっ、と、軽く指の腹で唇を撫で付けられた。 (甘い…?) 「もういいぜ」 ククールの声にハッとしてゼシカが目を開けると、いつもの悪戯っぽい表情が飛び込んできた。 ぼーっとするゼシカの手を取り、ククールは持っていたものを手渡す。 それは装飾が施された小さな瓶だった。 「これは?」 「さっき言ったろ?元気を分けてもらいに行ってきたって」 瓶を開けると、中は琥珀色の液体で満たされていた。 「バニーの仕事ってさ、夜遅くまでやってるだろ?」 「う…うん。それが?」 目をぱちくりさせるゼシカを見てククールはにやりと笑い、話し続けた。 「そんな彼女たちの元気のもとが、このハチミツなんだってよ。商売柄、彼女たちはこういうものに金かけててさ。そこらの店で売ってるのとは全然ものが違うんだ」 ククールは手袋をはめ直し、ベッドに腰掛け脚を組む。 完全にいつものスタイルに戻っていた。 「体調が優れない時にお茶に入れて飲んだり、今みたいに唇に塗ったりすると、バッチリ効くんだと。昔そんな話を聞いたのをふと思い出して、な」 と言いながらククールはウィンクをした。 「お酒たくさん飲まされたって、もしかしてこれをもらったから?」 「そ。今度はこっちの頼みを聞きなさいよ、だとさ」 ぷぷっ、と、思わずゼシカは吹き出した。 「なぁんだ」 「ん?なぁんだ、って?」 「あ…えっと………」 ゼシカは視線を逸らし、所在無さげに瓶を玩ぶ。 「もしかして妬いてくれちゃってたりしたのかい?」 「!!!…もう!ご想像にお任せしとくわ!!」 「光栄に存じます、ハニー」 ククールは立ち上がって言うと、旅に合流する時に修道院の入り口で見せたあのポーズをとる。 それを見たゼシカはたまらず膝を立て、そこに顔を埋めてしまった。 膝に顔を埋めたまま、ハチミツが塗られた唇にこっそりと触れる。 ささくれだった唇をハチミツが潤してくれているのが、指先に感じられた。 優しい甘さが残っている。 今度飲むスープは、きっともう滲みないだろう…。 そうだ。 エイトとヤンガスを呼んできてもらって、みんなでお茶を飲もう。 このハチミツを入れて。 トロデ王とミーティア姫には、エイトに届けてきてもらおう。 無くなったら、またドニの町のバニーさんから分けてもらえばいいものね。うん。 「ねえ、ククール。みんなを…」 膝から顔を上げたゼシカの目に映ったのは、隣のベッドで寝息を立てているククールだった。 一瞬あっけに取られたゼシカは、こつん、と、右のこめかみを膝に置き、ククールの寝顔を見ながらひとしきりクスクスと笑った。 「…ありがとう、ね。ククール」 ~ 終 ~
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*小さな宿屋のあるじに借りた台所で、一番に目覚めたゼシカがテーブルに簡単な朝食の準備をしていると、エイトやヤンガスが順番に起きてきた。最後にのっそりと現れた、低血圧なはずのクク―ルと目が合った瞬間。「おはようゼシカ。ハッピーバレンタイン」「……。」ゼシカは心底うんざりした顔で、ニコニコ笑うそのバカつらを見る。「…おはよう。何を期待してるのか知らないけどアンタにあげるものなんかないわよ」「またまた。何もチョコレートじゃなくたってオレは全然かまわないんだぜ? なんならゼシカ自身にリボンをつけてプレゼントしてくれても…って、ちょっとベタすぎるか」「バカじゃないの?うちのパーティはいつも金欠なんだから、そんな無駄な出費するわけないでしょ。そんなこと期待してるのアンタだけよ」「だから金のかからないものでいいんだよ。ゼシカの愛がこめられてるならなんだって」「こめる愛なんかありません」にべもないゼシカの態度にククールはたちまち不機嫌になる。「マジかよ?ホントになんもねぇの!?」「ないって言ってるでしょ!あるとしたら朝ごはんくらいよ。ぐだぐだ言ってないで手伝って」「ウソだろ~そりゃないぜゼシカさんよ~」がっくりと肩を落とした色男は情けない声をあげながら、渡された皿をテーブルにのろのろと運んだ。エイトやヤンガスがクスクス笑っている。彼らはククールが数週間も前から、この日を浮足立って待っていたのを知っている。本人は隠しているつもりなのだが、ことあるごとにゼシカってバレンタイン知ってんのかな、とか、知ってても当然サーベルト兄さん☆にしかあげたことねぇんだろうな、とか、アイツの手作りチョコなんて考えただけでゾッとするよな、とか。クールぶっているがまったく成功しておらず、バレンタインチョコなど掃いて捨てるほどもらってきたであろう色男がそわそわと話す様は、少し滑稽で、なんとなくかわいかったりした。ククールは一皿運んだだけで椅子に座り込み、頬づえをついてブツブツと文句を言っている。それを見て、ゼシカは盛り付けたサラダをテーブルに置きながら呆れた。「甘いものそんなに好きじゃないくせに。そんなにチョコが欲しいなら自分で買ってくればいいじゃない」「2月14日に男がチョコレート買いに行くとかどんな罰ゲームだよ。女の子がくれるからいいんだろ」「あっそ」ゼシカはツンとあごをそらして踵を返す。尚もククールはグダグダとテーブルに突っ伏し、「あ~つまんねーの~~……。……ドニにでも行ってこうかな…」まったくそんな気もないのだが、惰性でなんとなくそう呟いた。今日ドニに行けば、間違いなく大量のチョコが雨あられと渡されるだろう。取り巻きに飛びつかれ、抱きつかれ、キスされ、女の子たちにもてはやされるククール。そんな光景が容易に思いつく。「……。」ゼシカは無言で4人分のカップを用意する。背後では、まだ何か不満をもらし続けているバカな男。「………………コーヒー、いる人」はーい、がす、うぃ、と3人分の返事が聞こえた。レトロなやかんがピーーーと音を立て、しばらくするとトレイにカップを乗せたゼシカがテーブルに戻ってきた。エイト、ヤンガスの前にカップを置いて、最後に突っ伏しているククールの前にドンと置く。そして自分は再び流しの前に戻り、洗い物や後片付けを始めた。すっかり不貞腐れていたククールだが、コーヒーのいい香りに誘われ顔を上げ、まだ何やらしつこくボヤきながら、ゼシカの淹れてくれたコーヒーを飲む。「……ん?」すぐにククールは口を離し、カップの中をのぞいた。あれ?「おいゼシカ、これコーヒーじゃ…」「――おかわりはないから!」しかし唐突にゼシカがその声を遮ったので、ククールは目を丸くした。ゼシカは背を向けたまま、小さな声でポソリと告げた。おそらくは、ククールに対して。「……だから、味わって飲みなさいよ」ククールはしばらく考えて。そして。―――あぁ、と気付く。カップの中身は苦いコーヒーじゃなくて、…甘いココア。でも香りはしているから、自分以外の連中にはコーヒーを淹れたのだろう。それを知られたくなくて、ゼシカはあんな風に言ったのだ。今この空間で、2人の間だけにある秘密。ククールのカップだけ中身が違うこと。内緒にして、と。ククールは頬がゆるむのを隠せなかった。気のせいか若干ぎくしゃくした動きで洗い物をしているゼシカの後ろ姿はかたくなで、もうしばらくは決してこちらを振り返らないことは確かだった。多分顔はトマトのように赤いに違いない。それならば、と正面に座りなおして、改めてココアを口に含む。多分自分基準で砂糖を入れたのだろう。それは普段なら絶対にククールが飲むことのない甘ったるさ。でも今は、この甘さが幸せで、最高に愛しい。思わずのどの奥でクックッと笑いがもれたククールを、仲間たちが不気味そうに見ていた。さりげなさを装ったゼシカがテーブルに戻り、全員が朝食を終えた頃、エイトがふと尋ねる。「そういえばククール、さっき言ってたけど、今日ドニに行くのかい?」だったらついでに買ってきてほしいものが…などと計画的なことを言い出したエイトに、ククールは笑って首を振った。「いや、行かねぇ」「でも今日行ったらお望みのチョコが死ぬほど貰えるんじゃねぇんでがすかい」「ゼシカが淹れてくれたコーヒーが最高に甘かったから、他のチョコなんてもういらない」ククールはすでに空のカップを持ち上げ、ウィンクして見せる。いつもブラックの彼が甘いコーヒー?2人は顔を合わせて首をかしげた。途端にゼシカがガタンッ!!と音を立てて立ち上がり、ククールの手からカップを奪い取って、彼の後頭部をバシッと叩く。まったくめげず、ククールは「ごちそうさま」とニヤける。ゼシカは悔しいような表情でそれを睨むと、すぐにカップを流しの中に突っ込んだ。証拠隠滅。でも、この甘さをなかったことには絶対できない。それは今まで貰ったチョコレートなど足もとにも及ばない至高の甘さだったのだから。「――ハッピーバレンタイン」ククールが嬉しそうに囁くと、消えそうな声でゼシカが「バカ」と呟いた。 *
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711 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/08/24(日) 23 06 02 ID DCHlnBic0 ゼシカに言い寄ろうとする男は影でククが牽制して近寄らせないようにしていそうだ 712 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/08/25(月) 00 32 22 ID +85XdPsV0 まぁ十中八九そうだろうねぇ ゼシカの家の前で花束もってうろついてる輩を見つけては ミラクルムーンで遠いお空の彼方にふっ飛ばしてんじゃないの バギマの追加攻撃付きで ガチャッ「ククール?今なんか悲鳴が…」 「悲鳴?あぁオレがゼシカ愛してるって叫んでたの聞こえちゃった?」 「…バカ!!//」 ごまかしかたも慣れたものです。 713 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/08/25(月) 02 36 28 ID kdvkV9Iw0 712 ワロ萌えたw あぁオレがゼシカ愛してるって叫んでたの聞こえちゃった? 君が好きだ~と叫び~たい♪というフレーズが浮かんだ ククの台詞に「やめてよ、恥ずかしいじゃない」って 顔真っ赤に照れているゼシカを見下ろしながら 可愛いな~とデレているククな情景を妄想してしまった… 714 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/08/25(月) 18 52 17 ID 80Dhy+qS0 712 そのミラクルムーン&バギマの犠牲者の中には ゼシカの家の前をうろついている垂れ目の男も 含まれているんだろうなぁw 715 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/08/25(月) 23 20 07 ID CpubvF+k0 712 バカップルぶり凄いなw 他の男がゼシカに言い寄るのは絶対阻止だけど 自分はゼシカの前で他の女にもつい良い顔してしまう。 そしてゼシカが怒ると 7年目の浮気 の歌詞のような痴話喧嘩を繰り広げるけど 内心ゼシカのヤキモチが嬉しくて仕方ない。 そんなククさんもありかなと思ったw
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「ねぇ・・・リブルアーチでは本当にゴメン・・・」 「別に大丈夫だよ?」 「ゼシカ姉ちゃんは悪くないでがす!。」 「過去のことは気にするなよ。」 皆の言葉にゼシカはほっと胸を下ろす。 「そうそう、ゼシカがいないときのククールはまるで別人じゃったのう。」 えっ・・・・・? 「そうでかすよ。何度話しかけても返事はしないし。ほら、宿に泊まってみんなで夕食を食べてるときは まるで手が動いていなかったでがす。あんまり反応がないからククールの兄貴のサラダとスープは全部あっしが 食べちまったでがすよ。」 「あっ僕ククールが独り言で「ゼシカ・・・」って言ってたの聞いたよ?」 「お、おい!!?てめえ余計なこと言うんじゃねえよ!!」 ククールは顔を赤らめながら言う。 「余計じゃないよ~僕はククールがどれだけゼシカを心配してたか教えてあげ・・・」 「うるせぇ!!これ以上言ったらパルミドで馬姫さんが誘拐されたときお前がどんな様子だったか・・」 「あぁ!!?それは言わないで!! 」 「言ってやる。お前ゼシカの前で俺の事言ったんだからな。」 「だめーーー!!」 「「あーあ・・・」」 ヤンガスとゼシカは口をそろえて言う。 「確かに姫様がいないときのエイトの変わり様はすごかったわね。」 「あれも傑作だったでがす!!」 ククール・・・そんなに私のこと心配してくれてたんだ・・・ 「あれっ?ゼシカの姉ちゃん顔が赤いでがすよ?」 「そ、そんなことないわよ!!」 でもヤンガスに言われたとおり、ゼシカは自分の頬がすごくあついことを知っていた。 ホント、最近の私って変だわ・・・
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潮時・翌朝の時系列のククゼシ ※開発未満1※・※開発未満2※・※開発未満3※・※開発未満4※・※開発未満5※・※開発未満6※ 「……ん」うっすらと目を開けると、目の前に眠たげなククールの顔があって、ゼシカの意識はすぅっと上昇した。肘をついた手で顔を支えて寝そべりながら、自分の前髪を指先で意味なく弄んでいる手の平が目に入り、ゼシカはその手を無意識に取る。「…寝てた…?」「いや…そんな時間経ってないよ」ベッドの上で、指をからませ合いながら睦言を交わすこの時間。いつもはだらしなく垂れ下ったククールの表情が今日はなんだかとても疲れて見えて、ゼシカはシーツで胸を隠しつつ体を起こし、上からその顔を覗き込んだ。「どうしたの?疲れた…?」「…疲れたというか…」不機嫌とも取れる表情に、ゼシカは途端に身を竦ませる。性に無知な自分がいつかおかしなことを仕出かさないかと、ゼシカはいつもひそかにビクビクしている…「ゎ、わたし何かした…?」「…………んー…」「ご、ごめんなさい、なに?言って、お願い」取り乱すゼシカに対して今度こそ呆れたようなため息がつかれると、ゼシカは不安に満たされ泣きそうになった。ククールは体を起こし、そんなゼシカのおでこをこづく。「何したってお前…なんつうことをさせるんだって話だろ…このバカ」「え?…えぇ?な、なに?なんの話?」「んっとに…ハァ……。どーすんだよ…オレ、アローザさんに殺されたくねぇぞ…」「へっ?お母さんが、どうし…」突然ククールがゼシカのお腹にシーツの上からピタリと手の平を当て、「どうすんだよ、デキてたら」「―――……え?」「本気で気づいてねぇの?オレ、お前の中に思いっきり出しちゃったんだけど」ゼシカはきょとんと自分のお腹を見る。そしてそのまま、しっかり10秒間。絶叫しながら思い切りベッドに背をぶつけたと思ったら、今度は顔をリンゴのようにして絶句するゼシカに、ククールは根の深いため息をハーーーーーーーッとつく。「マジで無意識かよ…ホント始末におえねぇな…」「やややややだっ、どうしっ、な、なん…ッ、ば、バカッ!!バカバカ!!なにすんのよ!!バカッ!!」「ってなぁ…今さら言われても」「だって!!どうするのよっっ!!ど…っ、どうするのよ…っそんな…っ…ぁ、赤ちゃん、なんて…!」「いやいや別に、一回出したら一回妊娠するってわけじゃないからな?」「……………………。……そ、そっか…」混乱しすぎて涙目になったゼシカだが、冷静に諭され、そうよね、と一瞬落ち着く。そして、「…っで、でも!!違うわよっそうじゃなくてっ…ど、どうして…。…ぃ、いつもは、………ッ、外に、…てくれる、じゃない…!!」「ゼシカのせいだろ。ゼシカがあんなこと言うから」「あんなことって何よ!!私なんにも言ってな…」「“抜かないで”って言ったんだよ、お前」「は?」「オレが抜こうとしたら、お前泣きながら“抜かないで”っておねだりしたんだよ」「~~~~~~ッッ!!」落ち着いて考えると非常に猥褻な話題。ゼシカはこれ以上ないくらい赤面しながら息を詰まらせ反論する。「ッッ、言ってない!!!!!」「言った」「……っだ、だったとしても…!なんでその通りにするのよ…っ、ダメなのわかってたくせに…!」「いーかげんにしろ。あの状況でンなこと言われてそれでも抜ける男なんてこの世にいない」反論も思いつかず押し黙るゼシカと、額に手を当ててため息が止まらないククール。 ゼシカが今にも謝りだしそうなのを察して、ククールは不毛な言い合いだと気づく。「…ごめん、ゼシカは悪くないよな。つーかどう考えてもオレが悪いんだし。気にすんな」うつむくゼシカを片手で抱きよせ、明るい声で、「ま、多分大丈夫だろ。大丈夫じゃなかったらその時はその時だ」「……ごめんなさい」「あーだから謝るなって。悪いのは確実にオレだから」そもそも、ゼシカとの大切なセックスをどうしても無粋な薄ゴム一枚で邪魔されたくないというただの子供じみたワガママで、最初から付けようともしなかった自分が悪いのだ。いずれこうなることは目に見えていたのに。でもゼシカはククールが最も安全な選択肢を最初から捨てていたという事実に気づいていないので納得できない。ククールの胸に顔を埋めて、小さく首を振る。「……でも、…もし、大丈夫じゃなかったら…わたし」「だからそれは」「わたし、…ククールの邪魔になるわ…」「バカなこと言うな。…謝るのはオレだよ。アルバート家の大切な後継ぎのお前に、取り返しのつかないことをしでかしたことになる」「それなら一緒よ。…私は、ククールの自由な未来を…奪いたくないもの…」「別に、オレの方はノープロブレムだぜ?子供ができたって旅は続けられる」ゼシカが少し驚いて顔を上げると、ククールは片目をつむって見せた。「2人旅が3人旅になるのも、悪くないだろ?」目を丸くして少し困った顔になる。それから小さく笑って「バカ」と付け足し、ゼシカの方からククールに口付けた。「…本気で言ってくれてるの?」「じゃなかったら最初から絶対中になんか出さねぇよ。だから多分本当は、…それを望んでたんだ」「……私も…ククールの赤ちゃん、ほしい……――んっ」口唇から滑り落ちるように告げられたお互いの情熱的な告白に煽られ、触れ合うだけのキスがすぐに深いものに変わる。夢中でお互いの身体に腕を回して、貪り合った。ゼシカがキスに酔いしれているうちに、ククールの指先が背中をゆっくりと辿り、徐々に下降していく。お尻の割れ目をぬるりとなぞられて、ゼシカは一瞬にして我に返った。「…ッなにしてんのよ」「だってお前が赤ちゃん欲しいって言うから、さっそく子作りの続きを」「誰が“今の”話してるのよバカッッ!!!」思い切り突き飛ばされてもヘラヘラしたままのバカをふくれっ面で睨みつけ、そしてそんな風に開き直れない自分を少しだけ恨んだりもする。…自分達はたった今、永遠の愛の誓いを交わしたも同じだというのに。それを認められない、どこまでも素直じゃない自分が憎い。そしてそれをすっかり認めてご満悦なこの男が、憎らしい。子供みたいに喜んで。…バカ。自嘲気味なため息はただの照れ隠しだと、ゼシカも、ククールもわかっている。ゼシカは虚勢を張るのを諦める。明日になればどうせ自分はまた素直じゃない可愛くないコに戻ってしまうだろうけれど、今は意地を張ることがとてもバカらしく感じた。ホントに、バカみたい。私たち。また抱き合って、飽きずにキスして、肌のあたたかさを全身で交わし合う。こんなにもお互いが好きで、嬉しくて、楽しくて、みっともないほどに溺れて、もうどうしようもない。でもこれが「しあわせ」だと言うのなら、そうなんだろう。だってそれ以外にこの気持ちを表す言葉が思い浮かばないもの。 「…バカ」「うん」 「バカ……」「ゼシカ、愛してる」「……わたしも」「私も、なに?」「………。…なんでアンタっていつもいつもそう…」見つめてくるククールの真摯な蒼い瞳に、ゼシカは魅入られた。そして最後の羞恥心と強情を、諦めたようにあっさりと捨て去る。「―――愛してるわ、ククール。…だいすきよ…」言い終えないうちに口唇をふさがれ、シーツの海に倒れこむ。ククールの心底嬉しそうな顔に、ゼシカは苦笑した。ふと思い出し、重なった2人の身体の間に手を滑り込ませ自分のお腹に手を当てると、ククールが小首を傾げる。ゼシカはふわりと微笑む。告白大会の延長のつもりで、ちょっぴり頬を染め、勇気を出して言ってみる。「……………またいつか、たくさん出して、…ね?」もちろんそれは、大胆な愛の告白以外のなにものでもなかった。それ以外に意味を持たせたつもりは、とりあえずゼシカにはない。ククールの下半身がどう受け取ったかは別として、だ。今日何度目か知れない強烈な誘惑スキルパンチを受け、ククールは無言で身悶える。「……~~~ッお前なぁ」「なぁに?…ふぁ…あぁ疲れた…なんだか一気に眠気が…」「いやいやお前、今のはさすがに」「ホントにいきなり来た…ダメ、もう寝ちゃう…」「ちょ、お前、待て待てコラ…」ごそごそと身体を丸めはじめたゼシカに、ククールはなぜか焦って声をかける、が。「――クク!」「はいっ」「…………寒い」「…はい」お姫様のご指名が飛ぶとククールは条件反射でピシッと返事を返し、言われるままに剥き出しの冷えた肩に手を回して胸の中に納めてやった。そしてまもなくゼシカからは穏やかな呼吸が聞こえ始める。取り残されるのは途方に暮れた紳士ひとり。腕の中でスヤスヤ眠っているこの子供がさっきまでベッドの中で男を煽りまくっていた天下のお色気誘惑マスターだなどとは、すでに信じられないような幼女の寝顔だった。ククールはため息をつく。そして、かすかに隆起する彼女の薄いお腹にそっと手を当てた。……どんな未来がそこにあったとしても、オレはもう何一つ後悔しないだろう、と。後悔と、惰性と、諦観だけで紡いできたこれまでの人生を、すでに懐かしく振り返ることができそうなほどの充足感。乾いた心を外側から包み込み、内側から満たしてくれたこの存在を、死ぬまでこの腕から手放さないと、誓った。そしてゼシカも、オレとの未来を望んでくれた。この現実を「しあわせ」だとしか言い表せない。願わくば彼女もそう思っていてほしい。「――――…ありがとう、ゼシカ」明日もあさってもその先もずっと、貴方がしあわせでありますように。ゼシカの額に口づけを落として、ククールも安らぎに満ちた眠りについた。 *「いい加減に起きなさいよこの寝ぼすけ!!もうお昼になるわよ!?」「んんん…あー…もういいじゃんもうちょっと寝かせろよ…」「もう十分すぎるほど寝てるでしょうが!情けないわね」「…お前がこんだけ疲れさせたんだろー…」「は?なによそれ」「昨日お前が無駄にエロいから、オレもエッチ頑張っちゃたんだろ…あ痛っ」「自分のスケベを棚にあげて勝手なこと言ってるんじゃないわよっ!バカッ!」確かに、すでに身支度をしっかり整えて毅然としているゼシカからは、昨夜の妖艶で乱れた姿など想像もつかない。太陽が昇っている間のゼシカには、月を背負うククールは絶対にかなわないのだ。ククールに反撃が許されるのは夜の帳が降りてから…自分達は、そういう風にできているらしい。ならば逆らうのも無駄というもの。ククールは怠惰に起き上がり、プリプリしながらコーヒーを淹れているゼシカに後ろから抱きついた。「おはようございます」「…オソよう」カップを受け取りながら、もう片方の手でゼシカのお腹に手を当てる。「…膨らんでないな」「当たり前でしょ!」「まだしばらくは、2人旅、楽しもうな」ククールはそっと耳元に囁く。ゼシカはうつむき、頬を赤くして、バカ、とだけ。そして肩越しに振り返り、怒ったような表情のままククールを見上げた。ククールは速やかにご要望に応じ、そっとおはようのキスを交わす。今日も2人だけの旅がはじまる。誰にも邪魔されない、しあわせに満ちた一日が。 ※開発未満1※・※開発未満2※・※開発未満3※・※開発未満4※・※開発未満5※・※開発未満6※
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「……にが」 一口目の率直な感想をこぼしたゼシカを見て、ククールが微かに笑う。 「これは普通のビールよりキツいからな。ゆっくり飲むといいぜ」 「それにしても、修道院でビールを作っていたなんて知らなかったわ」 「宣伝してるわけじゃないし、今までここにも修道院にも長居はしなかったしな」 特に誰かさんは長居をしたくなかったようだし?と付け加えながら、ククールは意地悪く笑う。 「もぉ!それはククールも同じでしょ?」 「オレは修道院はともかく、ここならいくらでも居られるぜ?」 そう言うククールの表情からは、ベルガラックで見られた蔭はすっかり態を潜めていた。 「修道院で作られてるのはビールだけじゃないんですよ」 そう言いながらマスターは一皿を二人の前に置いた。 「これも修道院から仕入れてるものでしてね。チーズとバター。バターの方は店でレーズンバターにしてるんだけど」 「あー、頼もうと思ってたら先越されちまった」 悔しがるククールに、したり顔のマスターは続けた。 「これは私から奢り。こんなご時世だから、ククールぼっちゃんが素敵なお嬢さんを連れて久々に来てくれたのが嬉しくてね」 マスターの言葉を聞いたゼシカは頬を染め、再びぼっちゃんと呼ばれてしまったククールは思わずむせ返る。 「だ……だいじょぶ?」 「ぼっちゃんは勘弁って、さっき言っただろ……」 息も絶え絶えにマスターに抗議をするククールは、気の毒というよりはどこか滑稽に映る。 そんなククールの様子を見て、ゼシカは遠慮なしに笑う。 「あら、私だってリーザス村やポルトリンクではお嬢様って呼ばれるわ。兄さんだってずっとサーベルトぼっちゃんって呼ばれてたし。そういう場所があるって、いいことだと思うけどな」 「お嬢さんの言う通りだと思うよ。あとは私の口癖だね。今更、ククールさん、とは呼び辛いし」 「分かったよ……。ゼシカにもマスターにも叶わねぇな」 そう言うククールの表情は、苦笑しながらもどことなく心地よさの漂う風情だった。 「そんなことより、な?チーズとレーズンバター」 ククールはどうにも話題を逸らしたいようで、出された皿をつい、とゼシカの方に移動させる。 少し酔いが回ったのか、ゼシカはチーズを口にしながら唐突にクスクスと笑い始めた。 「美味いと笑うのかよ?ゼシカは」 「ううん、そうじゃないけど。あ、マスターご馳走さま。美味しいです」 「どういたしまして。ごゆっくりどうぞ」 笑顔で応じたマスターは、軽く会釈をすると他の客の注文をこなすために二人の前から離れていった。 「チーズを見ると、どうしてもトーポを思い出しちゃって」 「なるほど、そういうことか。ひとかけら持って帰ってやってみるか」 「それ、いいわね。でも食べたら何か吐くかしら?」 何気ないククールの言葉に、ゼシカは楽しげに同意をする。 「マイエラのチーズだからなぁ。……ダジャレを吐いたりしそうだよな」 「やだっ!ほんとにそんな気がしてきたわ」 意図的に真顔になったククールの言葉は、再びゼシカを笑いの渦に巻き込んだ。 二人は杯を重ね、それぞれ程良い心地に酔っていた。 チーズとレーズンバターに代わって、二人の前には皮のまま丸ごとオーブンで焼かれたイモが出されていた。 ゼシカはパリパリになったイモの皮を器用にナイフとフォークを使って剥がし、小さなココット皿に入れられたバターを一口サイズに切り分けたイモの上に乗せる。 「はい、できたわよ」 「サンキュ」 ゼシカが皿をククールの側に置き直すと、ククールは待ってましたとばかりにイモを手元の皿に取り分ける。 ベルガラックでは少ししか食べることがなかったククールは、どうやら今頃になって食欲が出てきたらしい。 ゼシカもその皿からひとかけらのイモを取り分け、口に運ぶ。 「レーズンバターも美味しかったけど、普通のバターも美味しいわね」 「当然だろ?」 そう言いながらにやりと笑うククールは得意げだ。 なんだかんだで自分の出身地のことを褒められるのは、悪い気はしないらしい。 「このバターもチーズもビールも、たまらなく好きなんだよな」 「うん、分かるわ。だってこんなに美味しいんだもの」 ぽつりとこぼされたククールの言葉に、ゼシカはニコニコしながら素直に頷く。 「もちろん美味いってのもあるけどな。同じ理由で酒場も好きなんだ」 「酒場って、ここだけじゃなくて?」 「そ。マスターも、そこで働く女の子も、全部ひっくるめてな」 そこで働く女の子、という言葉が少々引っかかったが、ククールの口調からは真面目な雰囲気が漂っていたので、ゼシカはそのまま話を聞くことにした。 「酒場ってところはさ。貧乏人でも金持ちでも、同じ金を払えば同じ分だけ満たされることができる場所だと思ってる。だからオレは、そこで働く人たちが好きなんだ」 滔々と語るククールを見て、ゼシカは目から鱗が落ちる思いがした。 今まで、ククールは単に酔っぱらいながら女の子と戯れているだけだと思っていたからだ。 過去に何度となくククールがこぼしていた、教会は金持ちしか救わないという批判と、修道院時代に自らに課せられたという、金持ちから寄付金を集めて廻る日々の話。 生きるために取らざるを得なかった自らの行動に疑問を抱きながら、ククールが自身の安息を求め行き着いた場所が、教会とは対極にある酒場だったのだろう。 「バターもチーズも、それと同じなの?」 「ああ、大雑把なイメージはな。そのまま食べても料理やお菓子に使っても、誰が食べても美味いだろ?」 「うん、そうね」 「美味いものを食べると、大人も子供も、誰でも幸せな気分になれるからな」 「あ!!そうよね。それってステキなことね……」 ゼシカはククールをまじまじと見つめながら思う。 この派手で気障な外見からは想像もつかないが、ククールには聖職者たりうる素質が十二分にあったのだと。 そしてその思想と解釈は、世にいる数多の聖職者の中で誰よりも純粋で、それでいて柔軟で、きっとどんな人の心をも満たすことができるのだろう、と。 もっとも、当のククール自身はそれに気付いていないような気もしたのだが。 「ん?オレの顔に何か付いてるか?」 視線に気付いたククールがゼシカに問う。 「別に何も?しいて言えば、口許にビールの泡がほんのちょっとかな」 微笑みながらそう言うゼシカの心もまた、気付かぬうちに満たされているのだった。 「……正直、院長が替わってからは、この味も変わっちまったんじゃないかって心配してたんだが。変わってなくて安心したぜ」 何杯目かのグラスを空にしたククールは、ふぅ、と息をつきながら呟く。 「この味が変わったら、うちの店は多分商売あがったりになっちゃうわよ」 カウンター奥の厨房から二人の前に小瓶を持ったバニーが現れ、ククールの言葉に相槌を打つ。 「はい、お待たせしました、ゼシカさん」 「ありがとう」 ゼシカは礼を言うと、小瓶を預けたときに相談していたらしい対価をバニーに渡し、嬉しそうに小瓶を受け取った。 「これで明日の朝は美味しいお茶が飲めるわ」 そう言いながらゼシカは席を立った。 ククールの気持ちもある程度は和らいだであろうし、明日決戦になるかは分からなかったが、それに臨む態勢は整えておかなければならないからだ。 見るとククールは若干名残惜しそうにしていたが、やがてマスターに勘定を頼むとゼシカに続いて席を立つ。 「また来てね、ゼシカさん、ククール」 「ああ。終末半額フェアーが終わったらな」 「うふふ、終わるといいんだけどね」 二人にかかるその言葉の重さを知る由もないバニーは、いつものように妖艶に微笑んだ。 酒場を後にした二人を、火照った身体にちょうど心地のよい夜風が包む。 「涼しくて気持ちいいわね」 ゼシカは一足先に階段を下りると、そう言って伸びをした。 「ね、ククール、少し……」 散歩してから帰ろうか、と、振り向きながら言おうとしたゼシカの言葉は、思わぬククールの行動に遮られてしまった。 ククールが片腕をゼシカの肩に回し、反対側の肩に顎を乗せる状態でその身体を預けてきたのだ。 ちょうどゼシカがククールに肩を貸しているような体勢になってしまっている。 「なっ……ちょ、ちょっとククール!どうしたのよ?」 振り向くことの叶わなかったゼシカは、その視線だけをククールの方に向けた。 顔をそちらに向けることも出来ただろうが、ゼシカにはどうしてもそれが出来なかったのだ。 「もしかして、酔っ払いすぎちゃった……とか?」 今しがた夜風で冷まされたはずの身体が酔い以外の何かで再び火照るのを感じながら、ゼシカは辛うじて言葉を絞り出した。 「ああ……恥ずかしながらな。座ってる時はさほどでもなかったんだが」 ククールはそう言うと顔をゼシカとは反対側に向けてから大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。 その動作の一部始終を背中で感じることは、ゼシカには刺激が強すぎた。 このような状態になった酔っ払いを介抱した経験がないことも相俟って、ゼシカはどうすれば良いか分からないままにククールの様子を観察する。 やがてククールはゆっくりと顔をゼシカの側に向けると、空いた側の手で前方を指差しながらこう言った。 「今はルーラできそうもねぇや。わりぃけど、宿屋で少し休ませてくれないか?」 ククールに他意は無かった。 以前に酔った状態でルーラを唱えて失敗したことを思い出し、万が一にもゼシカに怪我をさせるわけにはいかない、と、強烈な睡魔に襲われる中でただそれだけを考えての提案だったのだ。 しかし、そんなことを耳元で吐息混じりに言われたゼシカはたまったものではない。 一瞬にして頭の中が真っ白になってしまった。 宿屋で休む、ということは、つまりいわゆる……。 ククールに寄り掛かられ固まったままの姿勢でゼシカは頭の中の真っ白な霧を必死に振り払い、もの凄い勢いであれこれと考えを巡らせる。 酔った勢いで云々……という定番の話は耳にしたことがある。 もしやククールのこの行動は、自分を誘うための手の込んだ演技ではなかろうか? しかし純粋に辛そうにも見受けられるので、この懸念は取り越し苦労かもしれない。 ここまで酔った姿は見たことがないし、大体ククールはいつも何かにつけては口説き文句を口走るので、たとえしらふだったとしてもその正否を見極めること自体が難しい。 今の状態でベッドに放り込めばそのまま寝てしまうかもしれない。 しかし仮に寝たとしても、回復までに一体どのくらいの時間がかかるのかが全く判らない。 起こすタイミングなど皆目見当もつかないし、起きるまで待っていて朝になってしまうのもよろしくない。 それでは自分も休めないし、何より他の仲間たちに朝帰りと思われてしまうことが問題だ。 はっきり言ってそれは嫌すぎる。 「なぁゼシカ、宿屋に……」 固まったままのゼシカの耳元で再度ククールが囁いたのと時を同じくして。 (「メラはだめだよ。ラリホーあたりにしといて」) というエイトの言葉がゼシカの脳裏をよぎり、次の瞬間ゼシカはククールの言葉をかき消すようにラリホーを唱えてしまっていた。 本来味方には効かないとされる呪文だったが、ククールが酔っているせいか、あるいはゼシカの精神力の賜物か、あっさりとククールはその術中に陥った。 (ごめん、ククール。今は……今はやっぱりこうするのが一番いいと思ったの……) 心の中でククールに詫び、その吐息が寝息に変わったことが耳で認められたことでゼシカの緊張もようやく解け、ククールの方を見ることができた。 初めて至近で目の当たりにするククールの安らかな寝顔はまるで天使のようで、起きている時とのあまりのギャップに思わず笑いがこぼれてしまう。 (それなりに楽しんで貰えたようだし、まぁ、これで一応は作戦成功……よね) ゼシカは暫しの間ククールの寝顔を堪能すると、その胸中に安堵と微かな名残惜しさを覚えつつ、腰のポーチからキメラの翼を取り出して満天の星空の中に投じた。 ~ 終 ~ so sweet…前編
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☆ポルトリンクの船着場のベンチに腰掛けて、ゼシカはボンヤリと海を眺めていた。船が着く時分に仕事の手を止め港まで散歩に出ることは、既に生活のリズムになってしまっている。降りてくる人々の中に、無意識に銀髪を探すことも、だ。あの男はルーラが使える。キメラのつばさだってある。初めての土地ではないのだから、なにも船で来なくてもいいのだ。分かってる、そんなの。ゼシカは心の中で呟く。来る気になればいくらでも方法はある。…そう、来る気に、なれば。分かってた、そんな男だって。そんな男だと分かってるのに、待ってしまう。期待してしまう。逢いたくて、逢いたくて、壊れてしまいそうな自分にゼシカは気付いてしまった。トローデンでの別れ際、その男は真顔でゼシカに聞いた。逢いに行ってもいいか、と。あまりの真剣さに気後れしたゼシカは思わず、一体何しに来るのよ!と、つい切り返してしまった。その男は表情を変えずに…いや、なおさら表情を引き締めて、用がなきゃ逢いに行っちゃダメか?と聞いて、左手で、ゼシカの右手を取った。咄嗟に、メラを打つのを防いだのだと思ったゼシカは、捕らえられた右手に恭しく口付けられて驚きのあまり動けなくなった。愛してる、ゼシカ。二人で暮らそう。まるで呪文の詠唱の様に想いを込められたその台詞に、吸い込まれそうな美しい瞳に、長い間保ってきた均衡は、観念するように崩れ落ちた。一度だけ交わしたキス。なんか緊張した、と笑ったククールの笑顔がゼシカの心に焼き付いて離れない。身の回りの整理をして、すぐに行く、とその男は言った。ゼシカの時間は…それから止まってしまった。すぐに来るはずだった男、ククールは、2ヶ月経った今も、今日も、現れない。ポルトリンクの海は、小春日和の空の下、ゼシカの心を映し出すように、押しては、返した。「…ナーン…ニャーン」ゼシカがはっと我に返ったのは、鳴き声と同時に、ブーツに何かが擦りつけられたからだった。「…あら…猫」ベンチに座るゼシカの足首の辺りに、白っぽい猫が寄り添っている。ちょっと見ただけでも、とても綺麗な猫だった。「…ナーン」「よしよし、どこの子かしら?」ゼシカは身を乗り出して頭を撫でた。すると白猫は目を細めて指先を舐めた。「うふふ…あら。あなた白じゃないのね。銀色だわ」首を伸ばして舐める仕草に、陽の光がキラキラと躍った。かつて、毎日の様にその耀きに目を細めていたことがゼシカの胸をかすめ、チリと痛む。「…おいで」痛みを振り払うように両手を猫の前脚の脇に差し込み、抱き上げた。…え……?「ククール…」ゼシカと、猫は長い間見つめ合っていた。ククールの瞳がゼシカを見つめていた。深い、でも澄んだ、吸い込まれそうに美しいサファイアの碧。「ニャーゴ…」まるで案ずるかの様な鳴き声にハッとした。瞬きをすることすらも忘れていたゼシカは、まぶたを閉じた時、こぼれ落ちた涙に自分で驚いた。「…びっくりした…。あなた…ククールみたいだわ」猫相手に、まるでククールと再会したかの様な錯覚を起こしたことにゼシカは呆れる。「まったく…私も重症ね。あいつのせいでいい迷惑だわ」猫はなぜか目を逸らし、ナーォ、と鳴いた。「はい、どうぞ」扉を開けてゼシカは猫を床におろした。猫はキョロキョロと部屋を見回している。猫を抱いて、ねえ、この子の飼い主知らない?、と街中を歩き回る羽目になったのゼシカは、風の向きがすっかり変わり、そろそろ街灯に光が宿りはじめる頃に家に戻った。ポルトリンクの小さな一軒家に住むゼシカに、母親も理解を示していた。熱心に海運業の仕事を勉強する様子に、もう子供ではないと感じてくれたのか、止めても無駄だと思ったのか。数回使用人を手伝いに寄越したが、意外と家事にマメなゼシカに不要と判断したらしく、ここ最近は誰も来ない。結婚の話になると喧嘩になるのは相変わらずだが。「ミルク、飲むかしら…」ゼシカは指先をミルクに浸して猫の鼻先に近付けた。猫は匂いも嗅がずにペロリと舐めた。「あ、大丈夫みたいね」嬉しくなったゼシカは皿にミルクを注ぐ。「んもぅ…こっちよ」皿のミルクに見向きもせず、指先を舐め続ける猫にゼシカは笑う。無理やりミルクに向わせると、猫は仕方なしにミルクを飲みはじめた。その様子が余りにもつまらなそうで、ゼシカは笑いが止まらなかった。ゼシカは食事の支度を始めたが、ふと猫の姿が見えないことに気付いた。「あら?猫ちゃん、どこ行ったの?」探すと猫は部屋を次々と興味深そうに見て回っていた。閉まっている扉の前では、碧い瞳でゼシカを見上げて、ナォン、とドアを開けさせた。「だめよ、ここは寝室なんだから」「ナァン」「入りたいの?仕方ないわね。でもベッドに上がっちゃだめよ、お風呂に入ってからね」「ニャ」言い付けどおりベッドには上がらない猫を見て、会話が成り立っている様で可笑しかった。ゼシカはやおら猫を抱き上げ、その美しい瞳を覗き込んだ。「綺麗な目の色ね…ホントにククールみたい…。でもククールって付けるとややこしいし…」そこまで言って、ゼシカの表情が曇る。「…別にいっか。どうせあいつはもう…」来ないわよね、という言葉は飲み込む。俯いて黙り込んだゼシカの頬を、猫が伸び上がってザラリと舐める。「…うふふ…慰めてくれるの?」笑ったはずなのに、猫には雨粒がパラリと降り注いだ。「ナォーン」「ごめんね…私、どうしたのかしら」ゼシカは猫を抱いたまま座り込んでしまった。両手で顔を覆ってすすり泣き始めたゼシカに、猫は体を摺りつけ続けた。「ひくっ…クール…ククール…どうして…ひくっ…来てくれ…ないの…?」泣き続けるゼシカを猫は心配そうに見上げて、ニャーン、と鳴いた。「ごめんね、お腹空いたわよね?」やがて落ち着いたゼシカは、猫を愛しげに撫でて聞いた。「…あなたのこと、ククって呼んでいい?…あのね、私の好きな人、ククールって言うの。彼も私のこと好きだって言ってくれて…でもね…気が変わっちゃったみたい」「…ナーン」「あなた、ククールに似てるわ。でもククールって付けたら…もう会えなくなりそうな気がするの…。だからね、悪いけどククでいい?」「ニャーン」「いい?ありがと。いい子ね、クク」ゼシカはククをそっと抱き締めて、また、少し泣いた。ゼシカとククの暮らしは、そんな風に始まった。 ぬくもりの正体2